学校課題
研究主題:『相手意識を持って自分の思いを表現できるコミュニケーション能力の育成』
〜生徒の関心・意欲に基づく言語活動の在り方を求めて〜
主題設定の理由
平成20年3月、新学習指導要領が改訂告示され、平成24年度から完全実施となる。今回の改訂では、その経緯について以下のように述べている。
「知識基盤社会」化やグローバル化が進展する21世紀という時代は、知識や人材をめぐる国際競争が加速される一方で、異なる文化や文明との共存や国際協力の必要性が増大する。このような状況において、確かな学力、豊かな心、健やかな体の調和を重視する「生きる力」を育むことが重要になっている。OECDのPISA調査等の各種調査結果から分かる日本の児童生徒の課題、教育基本法や学校教育法改正を踏まえ、中央教育審議会で審議が行われたことに触れ、7つの基本的な考え方を答申としてまとめた。
この経緯を踏まえ、以下の3つの方針に基づき改訂が行われたと述べている。
@ 教育基本法改正等で明確となった教育の理念を踏まえ「生きる力」を育成すること。
A 知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視すること。
B 道徳教育や体育などの充実により、豊かな心や健やかな体を育成すること。
この中でAについては、確かな学力の育成には、「基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させること、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくむことの双方が重要であり、これらのバランスを重視する必要がある」と述べている。
さらに、基礎的・基本的な知識・技能の習得とともに、観察・実験やレポートの作成、論述など知識・技能の活用を図る学習や、総合的な学習の時間等で各教科等で習得した知識・技能を相互に関連づけながら解決するといった探究活動の質的な充実を図ることが、思考力・判断力・表現力の育成の手立てとして述べられている。また、これらの活動を支える基盤としての言語能力を各教科等で育成すること、学習意欲の向上や家庭での学習習慣を確立することを重視していると述べている。
本校はこれまで人権尊重の教育を実践する立場から研究を進めてきた。平成20年度は「互いの人権を尊重し、より良い生き方を目指す生徒の育成」という研究主題のもと、生徒の基礎学力の定着を図ることを副主題に研究に取り組んできた。指導者である教師が人権に配慮した授業、すなわち生徒一人一人に学びが成立する授業を実践することにより、生徒と教師の良好な人間関係が形成できると考えた。同時に、生徒自身に人権を尊重する態度が身に付き、共に学び合う生徒同士の好ましい人間関係も生まれ、その結果、教室に互いの良さを認め合いながら高め合っていく授業が実現でき、ひいては生徒の基礎学力が向上すると考え、日々の授業改善を行ってきた。これらの授業改善に取り組むために実践した授業研究会では、他教科の授業を見合うことにより、自分の教科では見せない生徒の一面を知ることができ、生徒理解が深められ、自分の教科との違いや共通点を発見し、指導改善の端緒をつかめた指導者が多くいた。
この取組により、生徒の学習意欲が改善された面もあるが、授業で自分の考え(一問一答式の問答という意味ではなく)をある程度まとまったものとして述べるという点においては、まだ十分力が付いたとは言えない。気の合ったグループで和気藹々と話し合いを行うことはできても、教室の中で他者の意見と自分の意見を関連づけたり比較したりしながら、自分の考えを筋道立て、級友に分かるように説明しようという意識は十分ではないし、その技術も十分ではない。これは話す活動のみならず、書くという活動においても同様である。
このような実態は、キャリア教育の立場からも改善されることが期待される。「キャリア教育に関する総合的調査研究協力者会議」報告書で提案された「職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み(例)」の中で、小・中・高等学校の各発達段階におけるキャリア発達課題を達成するために育成すべき4つの能力を示している。その一つに「人間関係形成能力」があるが、このことに関して「子ども達が、将来、社会人・職業人として自立し、時代の変化に力強く柔軟に対応していけるよう、集団生活に必要な規範意識やマナー、人間関係を築く力やコミュニケーション能力など、幅広い能力の形成を支援することが必要である」と述べている。
このように、キャリア教育の視点からも「コミュニケーション能力」の育成は重要な要素となっている。
今年度は、文部科学省の研究開発学校の指定を受け、2年目を迎える。研究テーマは「小学校との英語教育の接続」であるが、小学校での学習の上に中学校の学習をより効果的につなげていくことは、小中一貫校の研究が進められ、成果を収めている現状から考えても重要なことである。研究指定は、外国語活動・英語科であるが、小学校の実態を踏まえた上での指導は、「中1ギャップ」という言葉が存在することからも、どの教科においても重要な点である。この点、英語科がどう小中の連携を踏まえた授業実践をしていくのか、という視点は、自らの教科でどのような実践をしていくのか、という視点に置き換えられる。さらには、英語という言語教育の立場から考えた場合、「読む・書く・話す・聞く」という学習活動の充実が望まれるが、この言語活動に関しては、新しい学習指導要領でも示されているように、思考力・判断力・表現力の育成から、各教科で取り組むべき課題とされている。
以上の理由から、昨年度は生徒のコミュニケーション力の育成を研究課題として設定し、各教科等で示された言語活動の在り方を工夫することを通して、生徒の学習意欲を向上させるとともに、学習指導要領のねらう「思考力・判断力・表現力の育成」を図ろうと考え、研究に取り組んできた。しかし、小学校での研究の方向性を踏まえ、研究の方向を決定しようとしたため、昨年度の研究は、小学校での授業実践を参観したり、各教科でコミュニケーション力の育成を意識した授業を実践したりするにとどまった。そこで、今年度は生徒のコミュニケーション力を育成するための授業の在り方を、全教科で実践的に検証していくともに、英語科での国際コミュニケーション力の素地を育成するために全校で取り組める実践を検討していくこととした。
研究主題及び副主題のとらえ方
「相手意識を持って」というのは、自分の考えや意見を表現することだけに重点を置いているのではなく、自分の考えや意見を聞く立場となる相手、教室においては、級友であり、指導者としての教師を意識するということである。意識するというのは、級友や教師がどのような考えを持っているのか、どのような立場に立っているのかということを適切に理解するということである。すなわち、「相手意識を持って」というのは、自分が考えや意見を伝えようとする相手に対して、その相手が持っている考えや意見や立場を自分なりに理解した上で、自分の考えや意見を表現するということである。
このような他者理解に立った自己表現という行為が交互に行われることにより、望ましいコミュニケーションが両者間に成立すると言える。コミュニケーションは一方向ではなく、双方向のものである。従って、生徒のコミュニケーション力を育成するためには、その前提として、相手の話に耳を傾け、それを受容できる人間関係が、学級をはじめとする集団に築かれていることが必要である。
しかし、この人間関係は単に所属集団が同じならば自然発生的に芽生えるものではなく、集団内における人間同士の交流の中で形成されていくものであるから、初めは形が整わないコミュニケーションであっても、壁を越えて伝え合おう、理解し合おうという態度で繰り返されるうちに、相互理解が進み、信頼関係が生じ、好ましい人間関係が形成されていくと考えられる。
とすれば、生徒の学習活動の中に、生徒同士のコミュニケーション活動を積極的に取り入れることは、生徒の好ましい人間関係を形成するのに有効であると考えられる。同時にそれは、形骸化されたコミュニケーションではなく、実を伴うコミュニケーションを実現する力を身に付けることにつながると期待される。この力は将来、生徒が大人になった時、実社会で多様な他者と協力して、課題を解決していく力につながる。
そう考えた場合、生徒のコミュニケーション力を高める学習活動を行う上でのポイントは、その学習活動自体の内容・質と言える。形だけの話し合い活動や発表活動では、本当の表現力が高められることはない。「良き話し手は良き聞き手によって育てられる」とはよく耳にする言葉であるが、まさしくコミュニケーション能力を育成するには、それを育てるた めの学習活動、この場合、コミュニケーションに関わる力で考えるならば、好ましい人間関係に支えられた言語活動を充実していく必要がある。そして、それは生徒自身が学ぶ価値を意識し、関心・意欲を持って取り組めるものでなければならない。この点を踏まえて研究の副主題を「生徒の興味関心に基づく言語活動の在り方を求めて」と設定した。
最後に、本研究では「コミュニケーション力」という言葉を用い、「コミュニケーション能力」という言葉は用いない。これは、コミュニケーション能力と言うと、スキル的な面が強調されてしまい、能力以上に先ず課題解決のために他者に関わっていこうという積極的・主体的な態度を重視しているためである。そして、異なる文化や言語を越えて、理解し合おうとする態度、理解し合えると信じる心情こそ、コミュニケーションの根本として必要不可欠なものであると考えるからである。そのような態度や心情があるからこそ、生徒はスキル的な面での力を身に付け、より良いコミュニケーションを実現したいと思うからである。
目指す生徒像
(1) 他者の考えや意見や立場を適切に理解するとともに受容的に受け止め、自分の考えや意見との共通点や相違点を押さえながら、自分の考えや意見や立場を他者に根気強く伝えられ、互いの考えや意見や立場を踏まえて合意形成ができる生徒
(2) 言語を中心的な手段として、社会の様々な人々と積極的に関係を築いていくとともに、他者の考えや意見や立場との相違を乗り越え、協力して課題や問題を解決できる生徒
研究の仮説
(1) 各教科等において、生徒の興味・関心を生かした授業を工夫することで、生徒が積極的に交流し、思考力・判断力・表現力を高めることができるであろう。
(2) 各教科等において、相互に意見を伝え合い、協力して課題を解決する学習活動を工夫することで、互いの違いを乗り越えて分かり合おうとする生徒間の好ましい人間関係が醸成し、生き生きと学ぶ生徒が育成できるであろう。
(3) 思考力・判断力・表現力を身に付けた生徒が、好ましい人間関係の中で生き生きと学ぶことにより、生徒のコミュニケーション力を高めることができるであろう。
研究内容
(1) 研究の基本的な構想
(2) 組織別に見た研究内容
@ 教科研究部
・各教科で、どのような課題を設定し、どの段階でどのような学習活動(言語活動)を行えば、生徒が活発に意見交換を行い、生徒の思考力や判断力や表現力が高まり、自分と相手の良さに気付き、望ましい人間関係が築けるか。
・他教科の取組で、自分の教科に取り入れたことで、効果があった実践は何かを明らかにし、全教科等で実践するものを求める。
A 道徳・特活研究部
・道徳や学級活動や総合的な学習の時間において、どのような授業を行うことで、生徒が他者と温かい関係を築いていこうとする心情や態度、能力を身に付けることができるか。
・学級経営や生徒会活動や各種行事で、どのような点に配慮し活動を行えば、生徒の望ましい人間関係が築けた り、実践的なコミュニケーション力を高めることができるか。
B 調査啓発研究部
・本校生徒の実態をどのように捉えるか。また、小学校の学習の成果がどのように中学校の学習に生かされているか、どのように把握するか。
・本校生徒の実態について、どのように啓発していくことで、生徒や保護者の意識が高められるか。
・どのような先進的な実践が本校の学校課題解決に役立つか。
研究組織
研究計画